神戸地方裁判所竜野支部 昭和59年(ワ)129号 判決 1985年9月13日
原告
甲野太郎
右訴訟代理人
髙谷昌弘
被告
乙野次郎
右訴訟代理人
井上善雄
阪口徳雄
小田耕平
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
一 当事者双方の求めた裁判
1 原告
被告は原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和五九年一一月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
被告は、毎日新聞朝刊一一版に別紙記載の謝罪広告を、別紙記載の条件で一回掲載せよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
第一項について仮執行の宣言。
2 被告
主文と同旨。。
二 原告の請求原因
1 原告は、兵庫県宍粟郡山崎町の町長であり、被告は、同町の町議会議員である。
2 昭和五九年七月二六日の毎日新聞朝刊一八面に、「不明朗な公金支出」と四段抜きのタイトルとして(サブタイトル″解明へ一〇〇条委設置″)で山崎町の下水道用地買収に関する記事(以下、本件記事という)が掲載され、同記事中被告の談話として、「Aさんが国有地に建てていた門などに移転補償を出すこと自体おかしい、再譲渡で物件移転費の返還を求めないのはなおさら不可解、町長がAさんと癒着しているとしか思えない」との記載がされた。
3 右新聞に被告の談話が掲載され、公正無私で町の発展と町民の幸せを願い二期目の行政を担当している原告が「特定の人物の利益の為に町政を私物化している」がごとき感を読者に与え、もつて、原告の個人としての名誉を著しく毀損したばかりか、町長としての名誉と誇りを毀損した。
従つて、被告の談話内容は、地方行政の長としての原告にとつて、最も大切な選挙民との信頼関係の破壊を策した悪質なものである。
すなわち、被告の前記行為は、全く議会活動と関係なく、毎日新聞の記者の取材に応じてなされたもので、被告談話は、町民らに原告の人間的、政治的姿勢について疑いを持たせるためになされた悪質な誹謗、中傷である。
4 前記一〇〇条委員会(すなわち、後記する本件一〇〇条委員会)は昭和五九年一〇月五日「下水道用地買収に関しなんら不明朗な公金支出なし」との結論をだした。
5 原告は、前記被告の不法行為に基づき、精神的苦痛を受けるとともに社会的、政治的信用を傷付けられた。これを金員に換算することは到底できないが、敢えて金員に換算すると一〇〇〇万円を下らない。
6 よつて、原告は、被告に対し、右内金三〇〇万円とこれに対する訴状送達の翌日(昭和五九年一一月二四日)から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金並びに請求の趣旨第二項のとおり謝罪広告の掲載を求める。
三 原告の請求原因に対する被告の答弁
1 請求原因1、2は認める。
2 同3のうち、被告が毎日新聞の記者の取材に応じたことは認めるが、その余は否認する。
3 同4は否認する。
4 同5、6は争う。
四 被告の主張
1 およそ政治は、常に自由な批判と監視の下に公明正大になされなければならず、公正な行政を追求することは民主主義の目的である。民主主義制度の議会制をとる場合において、議員は首長を始めとする行政庁に対して常に厳しい監視と批判活動をすることが求められており、その議員としての民主的で公正な政務実現のための言論、表現の自由は高く保護される必要がある。
また首長は、市民全体の奉仕者として本来他に比して一段と高い人格、識見、能力と厳正な行動が要請されており、あらゆる面において国民の自由な批判に耐え、不断の反省努力によつて市民への奉仕者たるにふさわしい地位を保持し続ける義務がある。従つて首長への人格、識見、能力、行動等に対する批判は、それを通じて不断の反省努力によつて改善し得る公務員の資質に関するものである限り、出来る限り広く許容されねばならない。
すなわち、公明正大にして清潔な政治・行政を求めるための自由な批判は民主主義社会の前提であり、憲法に定める表現の自由が最高度に擁護しているものである。
2 昭和五八年三月から翌年七月にかけて兵庫県宍粟郡山崎町と同町民である福井輝司氏との間に行われた都市下水路用地の譲渡及び再譲渡をめぐつては、国有地上の占拠物件の撤去費用を支出したり、町が買い上げた土地が占拠されたり、さらに買い上げた土地の一部を再売買をするという通常考えられない不透明、不明朗な点が多く存した。このため、山崎町議会で疑惑ありとして追及され、これに対する町長(原告)の釈明でも決着せず、昭和五九年七月二〇日、この問題について地方自治法一〇〇条にもとづく特別調査委員会が町議会内に設置されたのである(以下、本件一〇〇条委員会という)。
原告が問題とする談話は、本件一〇〇条委員会設置を報道した昭和五九年七月二六日付の記事に登載されたものであるが、正確な表現は別として同紙の取材に被告が応じ発言したことは被告の認めるところである。
被告の談話は、右委員会が賛成多数で設置された背景と疑惑を説明する形でなされたものである。いうまでもなく被告の真意は、山崎町の健全な行政を求めるところにあり、このような町政に対する疑惑を追及する姿勢は議員として奨励されこそすれ、非難されるべきものでないことは多言を要しない。そもそもこのような目的のために右委員会が設置されたものである。
したがつて、被告の談話は原告のいうような悪質な誹謗・中傷などではなく、山崎町民の幸福と山崎町の健全な発展を願う町議会議員の町政に対する批判の発言であり、当然に言論の自由の下に保障されているものである。
3 本件一〇〇条委員会は、限られた調査ではあつたが公正な町政が行われず、このためかかる不正常な事態がもたらされたことを指摘しているのである。
(一) 即ち、右委員会は結論として次のように述べている。
「〔結論〕
(1) 本件執行につき、町長は「福井輝司氏より建築確認申請が提出された段階で、福井輝司氏に格別の協力を得たので、先行取得用地の売渡し等の措置は当然……」と主張されているが、福井氏の協力は都市計画法五三条、六五条等に基づく法制上の協力を与えたものと解すべきである。
(2) 契約行為を行うにあたつての「覚書」の締結は、結果として条件つき契約となつた。
(3) 職員間の解釈・認識の不一致、事務引継ぎの不徹底が本件の適切な執行に重大な支障を与えたものと考えられる。
(4) 調査の成果として門扉等公有土地水面にかかる物件撤去(含移転)費再補償の必要がないことが、法的に明確化された。」
(二) また、山崎町議会だよりでも、
「〔報告〕
(1) 上溝下水路用地の売渡しにつき、町長は「福井氏より建築確認申請が提出された段階で、福井氏に格別の協力を得たので、先行取得用地の売渡し等の措置は当然」と主張したが、福井氏の協力は都市計画法に基づく法制上の協力を得たものである。
(2) 先行取得の契約行為を行うにあたつて、進入路確保に協力する「覚書」の締結は、結果的に法律で禁じている条件付契約となつた。
(3) 助役は一度も現地調査せず、福井氏が不当に使用している進入路を、昔から使用していると間違つた認識をしていたなど、関係職員間において、解釈・認識の不一致や、人事異動による事務引継ぎの不徹底が適切な執行に支障をきたした。
(4) 公有土地水面の認可にあたり「下水路工事の必要がある時は、直ちに福井氏が自費で町の指示する通り占有物件を移転すること」の条件が付けられた。
以上、今回のような譲渡行為は、二度とあつてはならないことであることを報告する。」
と報告されたのである。
このような疑惑が客観的に存在していた本件において、甲野町政と福井氏との「癒着」を感じたり指摘することは、正当なものである。
4 本訴の狙いと不法性
なお、本件一〇〇条委員会の結論についても原告は反省を示さず、かかる訴訟を提起したことは、原告が前記疑惑があるのにあたかもなかつたかのように対外的に装うための手段であつて、被告に対して無用の応訴を強いる不法行為であると言うべきである。
五 原告の反論
1 地方自治法第一〇〇条に基づく調査委員会は地方公共団体の議会の権限を実効的に行使させるために議会に認められた補助的権限で地方公共団体の事務の調査を目的とするものである。
同委員会は調査手段に強制力を有しているので、同委員会の調査結果が行政に与える影響は大きく行政担当者の政治的、社会的信用を著しく侵害する可能性も存する。従つて、同調査委員会の調査内容等は、調査途中においては議会からの報告が求められない限り公表されず、通常、調査結果の確定まで公表されない。
よつて、同委員会の委員は、同委員会の調査終了にもとづく結果発表までの間、調査事項について、知りえた事実は勿論、まして自己の主観的見解の発表は、厳しく差し控える義務がある。
2 第一九九回山崎町定例議会中である昭和五九年七月二〇日、被告を含む四名の議員の動機により「都市下水道上溝用地の譲渡に関する事務調査」を目的として、本件一〇〇条委員会が設置された。同町議会は、同委員会委員として右動議提案者四名と中塚議員の計五名を選任し、本件一〇〇条委員会は発足した。同委員会は第一回委員会を同年同月二一日に開催し、委員長に中塚議員、副委員長に被告を互選したが、その際中塚委員長から各委員に対し、「本特別委員会の性格等からして調査完了までは個人的意見は謹んで欲しい、公表するときは組織的に対応する。」旨の要請があり、各委員はこれを了解した。右委員長の発言は、一〇〇条委員会の調査方法に強制力が有ることからして、この強制調査に関与する委員の発言は、これが仮に個人的発言であつても、社会的信用性が一町議の発言と比べものにならないほど高く、町民に予断と偏見を与え、その結果政治的、社会的問題が発生したり、個人の名誉等が著しく傷付けられることがあることを配慮したものであつた。
以上からして、議会の「天下の宝刀」と言われている一〇〇条委員会の委員は、同委員会の調査が完了し、結論が議会に報告されるまでの間個人的見解の表明は厳しく謹まなければならない義務がある。
3 然るに、被告は、本件一〇〇条委員会が実質調査を開始する以前である同年同月二六日までに請求原因記載の言動を敢えておこなつた者である。しかも、同発言は右委員会設置に関する客観的事実に付いてのものでなく、前記委員の義務に違反しているばかりか、発言内容が事実に反している。即ち、同委員会の設置目的が「原告とAさんの癒着にある」との感を町民に与え、同委員会が後に行なう証人等に誤つた先入観を与えるものであつた。それであるが故に、山崎町議会は乙四号証の通り右委員会の見解を記載せざるを得なかつた。
よつて、被告の本件言動は、これが町議会議員としての政治活動と関係なく、本件一〇〇条委員会の実質活動以前にされたこと、その内容が事実に反すること、これにより町民に誤つた認識を与え右委員会の公正な調査活動を阻害する恐れが有ること、更には原告が行政を私物化し特定の人物の利益を計つているとの観念を町民に植え付ける内容であること等を総合すると、原告の政治的、社会的信用の失墜を策した悪質なものといえる。
4 被告は、前記新聞報道後、本件一〇〇条委員会での自己の非を認め、副委員長を辞任し、かつ、昭和五九年九月三日付をもつて、次の内容の誓約書を同委員会委員長宛に提出しており、被告自身、本件言動が被告主張のような町議会議員としての政治活動としてなされたものでないことを認めたものということができる。
(1) 本委員会の調査目的が、「不明朗な公金支出による疑惑追及でない。」ことを認識する。
(2) 今後審議中や委員会としての結論が出ても委員長が発表するまで、如何なることも公表(他言)しない。
(3) 誤つた認識により結論が町民の期待はずれになつたとしても委員会に転嫁する発言は一切しない。
(4) 自己の存在を主張した九月三日の委員会発言は取消すとともに深く謝罪する。
(5) 委員会等に迷惑をかけたことをお詫びする。
六 被告の再反論
1 原告の反論はいずれも争う。本件記事中の被告の発言は、本件一〇〇条委員会設置に賛成した動機ないし理由としてのものであるし、そもそも同委員会の委員が、同委員会の調査事項に関して自己の見解の発表を差し控える義務を負うものでもない。中塚委員長が七月二一日の第一回目の委員会で原告主張の発言をし、各委員がこれを了承したことはない。
2 更に、原告の反論4は、原告に対する名誉毀損問題と関係のないことである。すなわち、原告主張の誓約書は、本件一〇〇条委員会内部で調査の範囲をめぐつて、全ての疑惑を解明しようという被告の意見と土地の再譲渡についてのみ調査をしようとする他の議員の意見が対立した際、同委員会において自己の存在が必要であることを述べた被告の発言が他の議員から非難され、委員を辞めるように要求されて混乱したので、結局多数派の委員の意見に従つて、被告が右発言を取消すに及び、同委員会における調査が円滑になされることを願い、同委員会内部用として作成したものである。
七 証拠<省略>
理由
一原告が兵庫県宍粟郡山崎町の町長であり、被告は同町の町議会議員であること、被告が毎日新聞の記者の取材に応じ、その結果、昭和五九年七月二六日の毎日新聞朝刊一八面に、「不明朗な公金支出」と四段抜きのタイトル(サブタイトルとして″解明へ一〇〇条委設置″)で、山崎町の下水道用地買収に関する記事(本件記事)が掲載され、同記事中被告の談話として、「Aさんが国有地に建てていた門などに移転補償を出すこと自体おかしい、再譲渡で物件移転費の返還を求めないのはなおさら不可解、町長がAさんと癒着しているとしか思えない」との記載がされたこと、以上の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二そこで、被告が毎日新聞の記者の取材に応じ、被告の談話として右内容の記事を同新聞に掲載させたことが、不法行為に該当するか否かについて、次に判断する。
1 まず、前記各事実に、<証拠>を総合すると、事実経過として以下の諸事実が認められる。
(一) 山崎町は、福井輝司(前記新聞誌上ではAさんと表示されている)方西側の農業用水路部分に、雨水、下水分離式の下水溝の建設を計画したが、これが福井方敷地の西側の一部にかかることから、昭和五八年三月一五日福井との間で、右下水溝用地として必要な土地六六・一五平方メートル(同人方敷地の西側を帯状に区切つた土地部分)を代金七九九万八〇〇〇円で買収し、福井が右敷地の進入用として公有水面上に設置していた門扉等の物件の移転補償費として四六〇万二〇〇〇円を支払う旨の契約を結び、その際福井の要請により、福井が右宅地の進入路として新たに土地を取得するについて山崎町が協力する旨の覚書を、別途福井との間で交した。
(二) ところが、右進入路用地の取得は難航し、このため福井は、右覚書を盾として右買収土地の一部の再譲渡を山崎町に申し入れ、結局同五九年七月一一日、自宅の進入路として右買収地の一部三四・八二平方メートルを代金四一七万八四〇〇円(買収時の単価と同一の単価)で同町から再び譲受け、その経過の中で、再び前記公有水面上に門扉等を設置してしまつた。
なお、右再譲渡にあたり、山崎町は先に福井に支払つた物件移転補償費の返還は求めなかつた。
(三) 山崎町と福井との間の右土地買収と再譲渡については、山崎町議会において、①一旦買収した土地をなぜ再び譲渡したのか、②物件移転補償をしている公有水面上になぜ再び門扉等の構築を許したのか、などについて質疑があり、結局同月二〇日の第一九九回定例議会において、被告を含む四名の議員の動議により、右福井との間の都市下水路上溝用地の譲渡に関する事務の調査を目的として本件一〇〇条委員会が設置された。
翌二一日右委員会の第一回会合が開催され、中塚議員が委員長、被告が副委員長に、それぞれ選出された。同委員会は、同月二四日兵庫県龍野土木事務所に対し、福井が再び門扉等を構築した公有水面について、右使用許可の有無を確認照会し、同年八月二日付で、右許可をしていない旨の回答を同事務所から受けているが、翌三日には福井から同事務所に右公有水面の許可申請がされ、同月二一日付をもつて、下水路工事の必要があるときは、福井において直ちに自費をもつて占有物件を移転する旨の条件付で、右使用が許可されている。
同委員会は、福井との前記土地買収事務に関与した山崎町の職員や福井から事情を聴取するなど必要な調査を逃げたうえ、同年一〇月五日付をもつて調査報告書を作成し、これを山崎町議会に報告した。右報告書において「結論」として指摘された内容は、被告の主張3の(一)に記載のとおりであり、また、右報告を受けて、同年一一月五日の「やまさき議会だより」(発行者山崎町議会)において掲載されたこの件の報告の内容は、同3の(二)に記載のとおりである。
なお、被告は、同年九月に本件一〇〇条委員会の副委員長を辞し、同月三日付で同委員会委員長に宛て、原告の反論4記載の誓約書を提出している。
以上の諸事実が認められる。
2 そこで思うに、そもそも公務員はすべて国民全体の奉仕者であり、公務員の選定、罷免は、国民固有の権利であるから、主権者である国民は、公務員の適否を知る必要があり、また知る権利を有する。そしてまた、行政は、主権者たる国民から付託を受けた公務員により、公明正大に遂行されるべきものであるから、その執行については、多方面からの自由かつ広範な批判が必要にして不可欠であり、行政を司る者には、右批判に耳を傾け、受容すべきを受容し、克服すべきを克服して、これらの批判を止揚してゆく能力が必要であり、かつその責務がある。言うなれば、そもそも施政は、右の広範な批判に耐えうるものでなければならない。
3 ところで、本件の場合、被告は、山崎町と福井との間の前記土地買収等について、不公正な点があるとの疑いを抱き、山崎町議会議員として同議会においてこれを追及し、更にこれを解明するべくいわゆる一〇〇条委員会設置の動議を提案し、これが可決されるに及んで、本件一〇〇条委員会の委員として以後この点の追及、解明を図ろうとしていたところ、その頃右の件について毎日新聞の記者から取材を申し込まれたことから、これに応じて本件記事中の被告の談話同旨の発言をし、これが本件記事となつたことは、先に認定したところから明らかである。
また、本件記事中の被告の談話の内容は、福井が公有地上に構築した門扉等に移転補償をした事実及び福井に買収土地の一部を再び譲渡した際右移転補償費の返還を求めなかつた事実を指摘したうえ、これについて、被告が自己の見解と疑惑を表明したにすぎないもので、特に事実を歪曲したり、批判としての域を超えた誹謗、中傷的な文言を使用した個所もなく、右談話が、被告が本件一〇〇条委員会設置の動議を提案した動機ないし目的について補足をしたもあることは、容易に理解できるところである。そして、前認定の事実経過、特に本件一〇〇条委員会が山崎町議会で可決、設置されたことや同委員会の報告内容からすると、被告が右談話にあるような疑念を抱くに至つたことが、特に不可解であるということもできない。
4 してみると、本件記事中の被告の談話は、山崎町の首長たる原告の施政に対する被告の批判、追及の一環にほかならず、被告が右談話を毎日新聞に掲載させたことをもつて、これが不法行為に該当するということはできないと思料される。
5 原告は、被告の右談話が、本件一〇〇条委員会の設置目的が「原告と福井との癒着の追及」であるかのごとき感を山崎町民に与えたとして、この点を問題としているが、なるほど同委員会の設置目的は山崎町と福井との間の「都市下水路上溝用地の譲渡に関する事務調査」とされ、表面上は、「不明朗な公金の支出がある」との前提にも、あるいはまた「原告が福井と癒着している」との前提にも立つものでないことは明らかであるとしても、少くともそのような立場からの指摘ないし追及により、右事務について調査の必要があると山崎町議会が認めたが故に本件一〇〇条委員会設置に至つたものであることもまた叙上から明らかであつて、右委員会の設置に関連して被告がその政治的立場から、前記談話のごとき同人の個人的見解を表明することに何らの差し支えもないと言えよう(しかも本件記事中には、被告の談話と対比する形で、原告の反論も掲載されており、本件記事を全体としてみても、格別問題視しなければならないようなものとは考えられない)。
そして右の結論は、被告が本件一〇〇条委員会の委員であることによつて、何ら変更すべきものではなく、原告がこの点について縷々述べるところは、結局のところ、山崎町議会議員としての被告の政治的、道義的責任の範囲に属する事柄にすぎない(一〇〇条委員会の委員に発言を差し控える法的義務がある旨の主張は、原告独自の見解であつて、採用できない)。
6 従つて、新聞記者の取材に応じて、本件記事中に自己の談話を掲載させた被告の行為が不法行為に該らない旨の前記判断は、何ら変更の要をみない。
三よつて、その余の判断を俟つまでもなく原告の本訴請求には理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官宮岡 章)